心身症
心身症とは
「心身症」は、特定の病気を指すのではなく、心理的要因が病気の発症に大きく影響する病気の総称です。そして基本的には「身体」の病気です。
定義としては「心身症は身体の病気であり、その発症や経過に心理・社会的因子が大きく影響しているもの」です。
心理社会的因子とは、言い換えれば「ストレス」のことです。
心身症におけるストレスは、その発症や経過、慢性化の要因のひとつとして考えられていて、生物学的には脳に作用して身体の機能、自律神経系や免疫系などに影響をおよぼすことによって、 関係するとされています。
一方、精神疾患である「身体表現性障害」、そのうち特に「身体化障害」は体の症状が中心ですが、その原因となる体の異常はなく、あっても軽微であり、本質は「心」の病です。
また、うつ病などでも、体に異常がないのに体の症状(身体化)が現れることがしばしばあります。
いずれも、体の症状が前景ですので、心療内科や精神科にいきなり受診することはあまりなく、その症状によって他の科にかかり、なかなか良くならなかったり、あるいは主治医に薦められて初めて受診となることが多いです。
心身症の種類
実際、体の病気のほとんど全てがその発症や経過に心理的要因が関与しています。ですから、その病気の種類は多岐にわたっていますが、その中でいくつか例を挙げます。
高血圧症
不安感や緊張感などが血圧に影響をおよぼします。心配で何度も血圧を測る人や白衣を見て血圧が上がる人などは典型的です。
また、不安緊張の強い人は不眠症を呈しやすいですが、高血圧そのものも不眠症の原因となりますし、逆に不眠が高血圧症の原因ともなります。
気管支喘息
気管支喘息は、アレルギー反応が原因であることが多いですが、大人ではその原因物質(アレルゲン)を特定できないことが多いです。
アレルギーを引き起こす誘因として、感染、喫煙、温度変化などと並んで、心理的ストレスも誘発因子であることが知られています。
胃潰瘍
胃粘膜の防御機構が弱まることにより、自らの胃酸で胃粘膜に傷ができ、潰瘍となります。
特に、ピロリ菌感染者や非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用などが原因と考えられています。
さらに、心理的ストレスも自律神経系の調節を障害し、胃粘膜の血流低下をもたらし、胃粘膜の防御力を低下させることがわかっており、誘発因子となります。
過敏性腸症候群
便通状態から、「便秘型」、「下痢型」、「交替型」に分類されています。いずれも、下腹部の痛みや腹部膨満感など不快感を生じますが、通常排便により軽快します。
なかには、一度の排便では収まらず、頻回に続くこともあります。特に、緊張場面やトイレにすぐ行けない状況(電車内など)では悪化しやすく、そのため、登校や出勤が出来なくなることもあります。
頭痛
何らかの理由で脳の血管が急激に拡張して起こる「片頭痛」や、首や肩の筋肉が緊張して血流が悪くなり、筋肉内の老廃物がたまり、神経が刺激される「緊張性頭痛」とも、心理的ストレスが関与しています。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、「かゆみ」「湿疹」「繰り返し」が症状の特徴です。
原因としては、アトピー素因や皮膚のバリア機能の低下という「体質要因」と、アレルギーを起こす物質(アレルゲン)や皮膚への外部刺激などの「環境要因」があります。
外部刺激には、乾燥、ひっかき傷、化粧品、ストレスなどがあります。
メニエール病
内耳の機能として、「聞こえ」と「平衡感覚」があります。メニエール病は、内耳のリンパが増え、水ぶくれ状態(内リンパ水腫)により、難聴またはめまい、あるいはその両方が起きる病気です。
原因はよくわかっていませんが、気圧変化、睡眠不足やストレスなどが影響すると考えられています。
そのほか、狭心症、糖尿病、過敏性膀胱、慢性関節リウマチ、線維筋痛症、慢性疲労症候群、顎関節症なども少なからずストレスが関与しており、心身症的アプローチが必要です。
心身症の治療方法
当然、身体の病気ですから、各疾患の身体治療が優先されます。 合わせて、生活習慣の見直しや環境要因、心理的要因についても検討が必要です。
心身症を呈しやすい人は、不安や緊張が強く、さらに自分の感情をうまく表現できない人(アレキシサイミアalexithymia:失感情症)に多くみられます。
心身症の治療方法は、身体治療と合わせて、
- まずストレスに気づき、生活・環境の改善を図る
- 認知療法などストレスの対処
- 筋弛緩法(リラクゼーション)やバイオフィードバック法
- 抗不安薬などの薬物療法
などです。
なお、ほとんど全ての病気はストレスが関与していますが、安易にストレスだけとは考えず、身体病の検査治療もしっかり行うことが必要です。それでもなかなか身体の状態がよくならない場合には、心療内科を受診することも考えてみてください。